土曜日, 11月 29, 2008

No Really ??

過去は霧のごとく消え失せ、残りは闇の中、の私ですが、忘れられない出来事もいくつかある。
10数年も前のことだが、週に何回か私は日比谷線で自由が丘から人形町まで通っていた。
今はどうか知らないが、そのころは通勤時間をずらしても車内はいつも満員で、銀座駅でたくさんの人が下車してやっと座れる、という具合だった。
その日も、銀座で座る席を確保して、やれやれ、とバッグから本をとり出し膝に乗せ読み始めたが、視界に妙な調和の乱れがある。「何だろう?」本から足元に目を移すと、なんと隣の人の足が私の領域に侵入しているではありませんか。失礼な、いったいどんな顔をしているのか見てみましょう、と肩越しに見たけど誰もいない。

ン、誰もいない? わたしは黒いヒールのある靴を履いているが、左側にあるベージュでフラットな靴は一体誰が履いているの? 誰もいないっていうことは、---- まさか、わたしが、二種類の靴を履いているっていうこと? そんな筈はないじゃないの アハハー。でも、ちょっと待って、もしかしたら私が大層疲れていて、目の錯覚で別々の色に見えるのかも知れないし、隣の人の姿も見えないのもしれない。そこで、確認のために自分の左の足を持ち上げつま先をブラブラと動かしてみた。あれがもし隣人の足ならば、ピクとも動かないはずですから。この時まで私は希望を持っていた。
しかし、残念なことにそれはユラユラと無意味に動いた。ベージュの靴をはいたそれは私の左足だったのだ。Oh!! my GOD!! なんてことが起きたのでしょう!!
身の置き所がない、としか言えない気持ちだった。血圧が急激に下がってくるのがわかった。
2-3秒の後「ぼんやりしている場合じゃあないわ」と気を取り直し、誰か私を見てやしないか?と人がまばらな車内をこっそり見まわした。幸いなことに、皆さんは本を読んだり居眠りをしたりで、誰も私に注目をしていないし、笑いをかみ殺している人も見当たらない。
だからといって、知った以上とても平常の顔をしては座ってはいられない。なんだか汗が垂れてくるし ---
それに、こんなお笑いの種を皆さんの前にいつまでも並べておく事はないんだわ。今のうちにドアまで移動して、せめて顔をかくそう。
そこで誰の注意も引かないように、目立たないように、静かに、静かに、動いた。
そしてやっとドアまでたどり着き、ドアのガラスに全身で張り付いた。ふーッ。。。これでやっと皆さんから顔を隠せたけど、肝心の靴部分はむき出しね。これでは”頭かくして尻隠さず”だ、と、とっさに足を交互に動かして靴を隠しあったが到底隠しきれるものではなかった。
10数分で人形町駅に到着。ドアが開いた。実は降りる事に強いためらいがあった。だってまた新たな対策を見つけなければならないじゃない?でも、私は電車を降りた。そして心を引き締めて決心した。「よしっ!!歩くぞ----」と。思った通りプラットホームも人がまばらだ。まずい!!これじゃあ目立つわ。
歩いて初めて気がついたのだが、左右のヒールの高さが6センチ以上差があるので、歩くと体が右に左にと揺れてくる。マリリンモンローは魅力的なお尻を振って歩くために、わざと左右のヒールの高さを0.5インチ差をつけて靴を作らせた、というけれど、私は2.5インチ差だもの、自分の意志ではないけど、思いっきり振れていたと思う。
すれ違う人がみんな私の顔と足元を見て行く。
でも、マリリンのようにセクシーだから見ているってわけではないのは、私だってよーくわかっているつもりよ。
いい考えが浮かんだ。色も形も別々の靴を履いていて、異常な状態だからすれ違う人たちは私を見るのだ。いっそ、靴を脱いで歩こう。
そこで、二つとも脱いで手に提げ後ろに隠し、ストッキングをはいた裸足で歩いた。
でも、通り過ぎる人はまだ見る。ウーン、裸足もやっぱり変なのね。

時々人形町の街で出会う女のホームレスが、その朝はホームのベンチに座っていた。今日はどこかにお出かけなんでしょうか。小物を満載した紙袋を2-3個足元に置き、上半身を前に深くかがめて座っていた。彼女は雨が降っても晴れても裸足で歩き、足の甲がちょうど靴をはいた形に汚れて真っ黒になっているのだ。日ごろはあまり彼女をうらやましい、とは思っていなかったが、その日は彼女の足の部分がうらやましくて、うらやましくて目が離せなかった。

改札口までの道のりは長かったが私は歩き続けた。そして何人かの駅員の不審と憐憫をたっぷり含んだ熱い視線を浴びて、私はチケットゲートを後にした。
そして仕事場に行く途中にあった靴屋で、間に合わせの履物を買ったのだ。
目的地に着くまで、あまりのことにおかしくておかしくて笑いが止まらなかった。
あんなにバタバタすることなかったのだ。
左右別々の靴を履いていたからって、どうってことはないじゃあないの。

その日、鍵っ子で小学生だった娘が学校から家に戻ってきた時、玄関のたたきにヒールのある黒い靴とベージュの平らな靴がひとつずつ残っているのを見て不思議に思ったそうだ。「お母さん、今日、何を履いて行ったんだろう?」-- と。そして、なんだか悪い予感がした、とわたしが家に帰ってから言っていた。わたしはその朝、二足並んでいる靴の真ん中部分のひとつずつを足に引っ掛けて出てきたみたいね。

後日、仕事仲間がこう言った。「まゆみさんがホームレスになった時、顔はわからなくなっていても、裸足の足を見ればすぐわかるよ。左右の色が違うに決まっているんだから」。そうね、きっとそれ、わたしよ。その時はコロッケパンでも恵んでね。

こういうドジなことをするのは、わたしだけかと思ったら、同じようなことをした人が知り合いにふたり程いて、とても救われた思いがしましたわ。おわり

火曜日, 11月 04, 2008

僕、お猿の方がいいな :)

早くも11月に入りましたが、今から1〜2ヶ月程前の夏が終わろうとする頃、韓国から短期留学で来た20歳くらいの学生さんが
”I have a question。日本を旅行したいがどこがいいでしょうか?---とわたしに質問した。
あいにく沖縄は台風シーズンだし、北海道のスキーにはまだ早いし--という時期だったので、
お手軽で、日本の風習も味わえる温泉を紹介することにした。
幸いなことに彼は温泉/hotsprings は知っていた。
そこで、少し、説明を--
”温泉は室内だけでなく山の中や川の傍にもあるし、海辺にある事もあります。ゆっくりお風呂に入りながら温泉で暖めたお酒も呑めるし、冷たいワインも呑めます。privateのお風呂もあるし、混浴のところもありますよ” ---と言ったところ、不思議そうな顔をしている。mixed bathing/「混浴」は理解、納得できないようだった。

何秒か考えて ”混浴ってWOMENと一緒にはいるのですか?”と質問してきた。“もちろんよ!!”
“何も着ないで?”というから、“ Of course”と答えた。(あったり前じゃあないのねぇ)
そうしたら急にもじもじし始めて ”I can't" という。まあ、予想はつくけど-- 一応 “Why?" と聞いた。
すると彼は、"わたしは友達と一緒に旅行する。友達は恋人/loverも連れて来る。わたしは友達のloverと一緒に風呂にははいれない、
はずかしい。I can't”と言って、身をくねらせている。
---おっとっと、まあまあ、そんなに恥ずかしがらなくても--でも、そういう事情だったのね。
”だいじょうぶ、だいじょうぶ、男女別々のところもあるから。
女性と一緒に入るのが嫌ならお猿と一緒に入る?”

“What?" He said.
これも理解できなかったようだ。無理もない。
”山にある温泉だと近くにお猿が住んでいるでしょう? お猿も温泉が好きなので、時々人間が入っているところに来て、一緒に温泉に入ります。頭にタオルも乗せるのよ”と説明した。

"本当/Really??" これには喜んでいた。”お猿に頼めば背中を洗ってくれますよ、きっと”

””WAOOO!!””と叫んだ彼は、やっと眉の間を広げて、晴れ晴れした笑顔を見せてくれた。
こういうのを「破顔一笑」というんだろうな-- と思いつつ、
そうか、そんなにまで混浴が心配だったんだ-- と、おかしいやら何やら--。

まだ女より、お猿の方が気が楽なのね、君は。
人生、これからね。




(イラスト&露天風呂の写真--Japan'sHotspringsより. 秋田の雪景色/picture by Mayumi)