火曜日, 2月 09, 2010

LIL/リル

♬----「海を見つめていた
はまのキャバレーにいた
風の噂はリル
上海帰りのリル リル

甘い切ない思いでだけを
胸にたぐって探して歩く

リル リル 
どこに居るのか リル
誰かリルを しらないか--♬
----「上海帰りのリル」

この歌がはやったのは昭和26年だという。
---となると、私は当時2歳くらいだ。
”上海帰りのリル”はわたしの愛唱歌だった。

2歳のわたしは、水を飲ませてもらうために父と台所にいたようだ。
夕暮れ時だったのか、夜だったのか、わからないが--台所は薄暗い。

和室の居間のタンスの上にあったラジオから
かったるくなるような"リル"のメロディーが流れて来る ♬

大きなコップから口を離して
わたしは父を見上げて、前から不思議に思っていたことを聞いた。

「リルってなあに?」
父は言った。
「よそのお姉さんの名前だよ」

先週、風邪で高熱がでていたとき、
こんな小さな記憶が
まだ30歳台前半であったグレーのソフトをかぶり、ツイードのオーバーコートを着た父の若々しい姿と一緒に
頭の中を ゆっくり ゆっくり 流れていった。