木曜日, 9月 16, 2010

「倒暑」のあと、See You Again


死ぬ程暑い。

こんな暑さは「倒暑」というそうだ。
夏が始まったばかりの頃は「あっぱれだ」なんて褒めていたが、
今や「もう、いいでしょう?」と言いたい気持ちです。

文字通り倒れてしまいそうな今年の夏も、そろそろ終わりに近付いてきたので、ヤレヤレですね。

30年も前のことですが、佐々木 幸雄、作詞作曲、自演の「ここで夏を見送る」という曲がささやかにはやった。
磨りガラスの上を蝉が歩いているような、乾いたかそけき声で彼が歌うことによると、
優しげで何でも言うことを聞いてくれるいい男と(多分、彼自身のことでしょう)、
何でも言うことをきかせる女がいる。
今はいいけど、こりゃあ、いずれ別れるな--と予想される歌です。

「空は、とても、いい色。
それに、雲は高く♬---
さあ、早く、起きろよ、
ぐずぐずしてると、遅れる。

髪を洗い、念入りにお化粧---
それが済んだら、波止場行きの、
電車、飛び乗り、防波堤まで、
ここで、夏を見送る。

君はうっかり帽子を忘れて--
僕に八つ当たりのし通し--
See you again いう つもりだったね--」と、

のんきな歌である。

場所の設定は北海道なので、夏とはいっても空気は清々しい(らしい--)
別れが示唆されているとはいえ(してないか)、ゆるやかなリゾート気分にさせてくれるので、私は今でも大好きです。

彼は歌詞の中で、去って行く夏に向かって「See you again 」と、言っている。

夏が好きな私も去年まではそう言えたが、
死ぬ程暑い今年はとても言えませんです。

こんな状況の中、私はいいことを思いついた。

私の住んでいる集合住宅にはウチの居住部分の南側に、奥行き2m 弱のバルコニーが10m 程の長さでついていている。手すり越しに見えるのはテニスコートがいくつも入るような大きな駐車場で、こちらの敷地の端には、深緑色の葉がこんもりと茂った大きなポプラだか、樫だかが植えられていて、ウチのバルコニーを目隠ししている。ウチから多摩川で行われる花火はみえるが、外からは誰も見ることができない、という非常に恵まれた環境なのです。なにしろ南側、お向かいの家は駐車場と道路を隔てて、100m近くも離れているのですから。

そうは言っても、たいして広くもないバルコニーなので、いつもは洗濯ものを干すことだけに使っているが、私は今年の暑さに発奮して、ここに寝椅子とフロアースタンドを置いて、夜空を見上げ、寝ながら本を読めるようにセットした。

シャワーで汗をさっぱりと流し、背もたれを25度に傾けた長椅子に,私は静かに横たわる。暗いので足下が危ないからね。
フロアースタンドの明かりが手元だけを照らすように調節し、冷たい飲み物と読みかけの本を2~3冊用意する。バルコニーの隅に置いてある、瀬戸の火鉢の縁のたまったホコリを払い、そこに置くのだ。

遮るものが何もない夜空を見上げて息をすると、いつもの何倍もの空気が肺に入ってくる。
「夜空全部が吹き出し口でした。」とでも言いそうな大きな風が、長々と横たわった私にぶつかって来る。そして、風に吹かれたポプラだか、樫だかの葉が、カサカサと乾燥した音をたてて、耳に入って来ると、頭の中の回線は切り替わって、お店の売り上げのことも、ローンのことも、老後のことも、なにもかも、ゼーンブ、星のきらめく暗藍色の空の彼方、涼しい銀河の果てに吹っ飛んでしまった。

この晩に何を読んだのか、ぜんぜん、記憶にありません。
何故って、いい気持ちで、すぐに眠ってしまったようなのね。
See you then.

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